旅で「当たり前」を疑うジャーナリング:日常業務の固定観念を打破し、新しい視点を得る方法
はじめに
多忙なビジネスパーソンにとって、旅は貴重なリフレッシュの機会です。しかし、旅から戻るとすぐに日常の業務に追われ、旅先で得たはずの新しい感覚や気づきが薄れてしまう、あるいは仕事に活かしきれていないと感じることはないでしょうか。
旅は、普段見慣れた日常から私たちを切り離し、異なる環境や文化、価値観に触れる機会を与えてくれます。この非日常体験は、私たちの思考に刺激を与え、固定化された視点を揺り動かす可能性を秘めています。しかし、その可能性を最大限に引き出し、具体的な成果やアイデアに繋げるためには、意図的な「内省」のプロセスが必要です。
そこで今回ご紹介するのが、「旅で「当たり前」を疑うジャーナリング」です。これは、旅先で遭遇する様々な事象に対して意図的に問いかけを行い、日常業務における自身の固定観念や盲点に気づき、新しい視点や解決策を見出すための実践的なジャーナリングテクニックです。
この記事では、なぜ旅が固定観念を打破する機会となるのかを解説し、具体的なジャーナリングの方法、忙しい中でも実践できるテクニック、そして旅の記録を仕事に活かすための具体的なステップをご紹介します。
なぜ旅で「当たり前」を疑うことが重要か
私たちは日々の業務を効率的にこなすために、無意識のうちに多くのことを「当たり前」として受け入れ、定型的な思考パターンに依存しています。これは安定性や効率性をもたらす一方で、新しいアイデアの発想や、潜在的な問題点の発見を妨げる要因ともなり得ます。
旅の非日常性は、この「当たり前」の枠組みを一時的に解除します。見慣れない風景、異なる習慣、予期せぬ出来事などに触れることで、普段は意識しないようなことに心が動いたり、疑問を感じたりします。
- 日常の盲点を浮き彫りにする: 旅先での「なぜ?」という問いかけは、日常における「なぜそうなのかを考えもしなかったこと」に気づかせてくれます。
- 強制的な視点転換: いつもと違う環境に身を置くことで、物事を多角的に捉えようとする自然な働きが生まれます。
- 思考の柔軟性を高める: リラックスした状態での新しい情報との接触は、脳を活性化させ、硬直した思考を解きほぐします。
このように、旅は意図的に「当たり前」を疑い、自身の思考パターンを見つめ直す絶好の機会なのです。
「当たり前を疑う」旅ジャーナリングの具体的な方法
では、旅先で具体的に何を記録し、どのように「当たり前」を疑えば良いのでしょうか。鍵となるのは、観察と「問いかけ」です。
1. 意図的な観察
旅先では、五感を研ぎ澄ませ、意図的に観察する対象を設定します。単に風景を楽しむだけでなく、その土地の生活、人々の振る舞い、街並みの構造、サービス提供の仕方、公共交通機関の仕組みなど、普段の仕事や生活に関連する、あるいは全く異なる事象に注目します。
- 観察の対象例:
- 現地の人が時間や空間をどのように使っているか
- 商品やサービスがどのように提供され、顧客体験がどうデザインされているか
- 文化的な習慣やコミュニケーションのスタイル
- 自然環境や都市環境のユニークな点
- 予期せぬ問題や、それを乗り越えるための工夫
2. 「問いかけ」の記録
観察した事象に対して、「なぜ?」という問いかけを繰り返します。そして、その問いと、それに対する現時点での仮説や感想をジャーナルに記録します。
- 具体的な問いかけ例:
- 「この街の公共交通機関はなぜこんなに効率的な(あるいは非効率な)のだろう? 自分の会社の〇〇プロセスと比べてどう違うか?」
- 「このカフェのスタッフはなぜあんなに自然な笑顔で接客しているのだろう? 顧客エンゲージメントを高めるヒントはないか?」
- 「この地域の伝統的な建物はなぜこのような構造になっているのだろう? 効率や持続可能性について、現代の設計に活かせる考え方はないか?」
- 「旅先で感じた小さな不便さ(例:情報の探しにくさ、手続きの煩雑さ)は、実は自分の提供しているサービスやプロダクトにも共通していないか?」
- 「普段当たり前だと思っている〇〇(例:会議の時間、メールの書き方、意思決定プロセス)について、旅先で触れた価値観と照らし合わせるとどう見えるか?」
問いは一つだけでなく、複数の角度から問いを立ててみましょう。最初の問いから派生して、さらに深い問いに進むことも有効です。
3. 感情や感覚の記録
観察や問いかけの過程で生じた感情や感覚も正直に記録します。「驚いた」「違和感を感じた」「面白いと思った」「少しイライラした」など、具体的な感情を書き留めることで、後からその記録を見返した際に、当時の気づきをより鮮明に思い出すことができます。感情は、しばしば「当たり前」からの逸脱を示唆する重要なサインです。
忙しいビジネスパーソン向け実践テクニック
旅先で時間を確保するのは難しいと感じるかもしれません。しかし、このジャーナリングはまとまった時間を必要としません。隙間時間や移動中などを活用することで、無理なく実践できます。
- 短時間ジャーナリング: 5分〜10分程度で十分です。観察したことの中から一つか二つに絞り、それに対する問いかけと簡単なメモ、感じたことを記録します。移動中の電車や飛行機、カフェでの休憩時間、待ち合わせの合間などに実行できます。
- 音声入力の活用: スマートフォンやPCの音声入力機能を活用すれば、手を使わずに思考を記録できます。移動中や景色を見ながら、思いついた問いや気づきを声に出して記録しておき、後でテキスト化して整理します。
- 特定のテーマを設定: 旅に出る前に、今回の旅で特に問い直したい「仕事における当たり前」や「探求したいテーマ」を一つか二つ決めておくと、観察の焦点を絞りやすくなります。(例:「今回の旅では、チーム内の情報共有のあり方について、異なる文化圏でのコミュニケーション方法からヒントを得られないか探る」「会議の効率を阻害している「当たり前」を見つけ出すヒントを得る」など)
- 写真・動画と連携: 記録した問いや気づきに関連する写真や動画を一緒に保存します。視覚的な情報とジャーナルを結びつけることで、後からの振り返りが容易になり、記憶も鮮明に残ります。デジタルノートアプリであれば、写真や動画をジャーナルエントリに簡単に添付できます。
旅の記録を仕事に活かす具体的なステップ
旅先で記録したジャーナルは、持ち帰って終わりではありません。ここからが、ビジネスに活かすための重要なプロセスです。
ステップ1:帰宅後の整理と見直し
旅から戻ったら、記録したジャーナルを見直す時間を設けます。手書きノートであればデジタル化を検討し、デジタルツールで記録した場合は、内容を整理します。特に重要な問いかけや気づきにはハイライトをつけたり、タグを付けたりして分類します。
- タグの例: #視点転換 #業務改善 #アイデア #固定観念打破 #異文化 #顧客体験 #コミュニケーション #効率
ステップ2:日常業務との関連付け
ジャーナルで記録した「当たり前への問いかけ」や「新しい視点」を、現在の仕事における課題やプロジェクト、日常業務のルーチンと照らし合わせて考えてみます。
- 「旅先で〇〇のサービスを見て感じた効率性の高さは、自分のチームのワークフローにどう応用できるか?」
- 「旅先で見た△△の文化的な習慣から、社内のコミュニケーションを改善するためのヒントは得られないか?」
- 「旅先で不便を感じた◇◇という点は、もしかしたら顧客も自社のサービスで感じていることではないか?」
抽象的な気づきを、具体的な業務に結びつける思考プロセスを丁寧に行います。
ステップ3:具体的なアクションプランへの落とし込み
関連付けた思考を、具体的な行動や検討事項に落とし込みます。
- 例:「旅先で見た△△の店舗デザインの考え方を参考に、次回のプロダクトデザイン会議で『空間と顧客導線』というテーマを提案する」
- 例:「旅先で感じた情報共有のスムーズさについて、チーム内で使っているチャットツールの活用法を見直すミーティングを設定する」
- 例:「旅で気づいた業務上の非効率な『当たり前』について、改善提案書を作成し上長に提出する」
ToDoリストやプロジェクト管理ツールにこれらのアクションを記録し、実行に移します。ジャーナルは、これらのアクションの源泉となります。
ステップ4:定期的な見直し
一度ジャーナルを見直して終わりではなく、定期的に(例えば週に一度、月に一度)旅のジャーナルを見返す時間を持つと良いでしょう。時間が経ってから見返すことで、新たな気づきが得られたり、以前は気づかなかった関連性が見えてきたりすることがあります。
ツール活用例
忙しいビジネスパーソンがこのジャーナリングを効率的に行うために、普段使い慣れているデジタルツールの活用は非常に有効です。
- Evernote / OneNote / Notion: テキストだけでなく、写真、音声、Webクリップなど、様々な情報を一元管理できます。強力な検索機能やタグ機能を使えば、後から特定のテーマに関連するジャーナルを素早く探し出すことができます。Notionであれば、データベース機能を使ってジャーナルを構造化し、ビューを切り替えて見やすく表示することも可能です。
- Obsidian: 知識間のリンクを重視するツールです。旅先での気づきと、仕事で抱えている課題を双方向リンクで結びつけることで、思考のネットワークを構築し、予期せぬアイデアが生まれることがあります。グラフビューで思考の繋がりを視覚的に把握できます。
- スマートフォンの音声レコーダー + テキスト変換アプリ: 思いついたことをすぐに音声で記録し、後でテキストに変換してノートアプリに取り込むワークフローは、移動中などに非常に効率的です。
- ToDoアプリとの連携: ジャーナルから生まれたアクションプランは、普段使っているToDoアプリ(例:Todoist, Asana, Trelloなど)にタスクとして登録することで、忘れずに実行に移すことができます。ジャーナルエントリへのリンクをタスクの説明に含めると、いつでも元ネタを確認できます。
まとめ
旅は単なる休息の機会ではなく、自己成長とビジネスへの示唆に満ちた学びの場となり得ます。「旅で「当たり前」を疑うジャーナリング」は、その可能性を最大限に引き出すための強力なツールです。旅先での非日常体験を通して、日々の業務に潜む固定観念や盲点に気づき、新しい視点と具体的なアイデアを持ち帰ることができます。
今回ご紹介した具体的な方法やテクニック、ツール活用例を参考に、ぜひ次回の旅で実践してみてください。短時間でも、移動中でも構いません。ほんの少しの意識と記録が、旅を終えて日常に戻った後のあなたの思考と行動に、確かな変化をもたらすはずです。旅の学びを無駄にせず、日々の仕事の質を高める一歩を踏み出しましょう。